
労働災害:個人のお客様
損害賠償と申請手続き

労働災害と損害賠償
労働災害と損害賠償(政府保障以外に受けられる補償)
労災保険制度では事業主の故意・過失は要件ではありませんが、補償内容は慰謝料が含まれないなど被災労働者が被ったすべての損害を填補できるわけではありません。
そこで、被災労働者は労災保険給付だけでは不足する部分を、事業主に対して直接損害賠償請求を行うことができます。事業主に損害賠償を請求する根拠は、民法上の債務不履行責任・不法行為責任であり、事業主の安全配慮義務違反もしくは故意・過失が必要です。
裁判上、安全配慮義務違反の立証責任の分配としては、労働者は「業務と災害の因果関係・契約上の義務違反の事実」を立証する必要があります。一方、事業主は「事業主には責任がないこと」を立証しなければいけません。安全配慮義務違反による損害賠償は、立証責任の観点で、事業主の方の負担が大きくなります。
安全配慮義務違反ではなく、不法行為を根拠とする損害賠償請求もあります。その際、労働者は被害者として事業主に故意・過失があったことを立証する必要があります。
安全配慮義務違反による損害賠償
労働者は、作業における危険を回避するための作業管理や労働環境設備の整備を怠った事業主に対して、安全配慮義務違反として損害賠償を行うことができます。
また近年では、パワーハラスメントや長時間労働・過労死における安全配慮義務違反による損害賠償請求も増加してきており、裁判例も多数でています。労働者・事業者共に、安全配慮義務の内容・安全配慮義務違反の事例 の確認をすることを、おすすめします。
不法行為による損害賠償
一般的な不法行為に基づく損害賠償責任は、故意または過失によって他人の権利を侵害した者が、生じた損害を賠償する責任を負います。
不法行為責任が成立するための要件は、以下の4点です。
1)故意または過失が存在すること
2)他人の権利を侵害したこと
3)損害が発生したこと
4)行為と損害との間に因果関係が存在すること
事業主に対し不法行為に基づく損害賠償責任を請求する要因としては、使用者責任(民法715条)を根拠とすることが多いです。
使用者責任とは、事業主は、従業員が業務の執行において第三者に加えた損害を賠償する責任があることを言います。
使用者責任が成立するためには3つの要件があります。
1)使用・被用の関係が存在すること
2)その被用者の行為が民法709条の不法行為の要件を満たしていること
3)その損害が事業の執行につき加えられたものであること
近年では、セクハラ・パワハラ事案において使用者責任を問われることが増加しています。
労働災害における申請手続きとは
労働災害の申請は、被災者本人または遺族がおこないます。労災保険給付の請求は、2年以内に被災者の所属事業所の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して行わなければなりません。障害給付と遺族給付の場合は5年以内に行う必要があるので、注意してください。
労働基準監督署は、必要な調査を実施して労災認定をしたうえで給付を行います。
支給請求書には事業主証明欄があり、原則として、被災事実や賃金関係の証明印を得ておく必要があります。
被災者本人または遺族にとって労働災害申請は、初めてのことである場合が多く、さらに直接申請をしないといけないため、手続きに不安を覚えられる方も多くいらっしゃいます。
そこで、複雑な労働災害申請を行う際には、ぜひ弁護士に相談してみることをお勧めします。弁護士は、被災者・遺族の労働災害申請における支援を行ってくれるだけではなく、提出必要書類の添削等もおこなってくれます。ぜひ申請手続きにお困りの方は、弁護士にご相談してみてください。
⑴療養(補償)給付申請
「療養の給付」の請求
労災病院または指定病院等で治療を受けるために、「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)に必要事項を記載して、療養を受けようとする病院等を経由して、労働基準監督署長に提出します。
「療養の費用」の請求
労災病院および指定病院以外の病院等において療養を行った場合は、その費用の給付を受けることが出来ます。「療養補償給付たる療養の費用請求書」(様式第7号)に必要事項を記入し、労働基準監督署長に提出します。
⑵休業(補償)給付申請
休業して第4日目から受け取ることが出来ます。「休業補償給付請求書・休業特別支給金支給申請書」(様式第8号)に、必要事項を記入し、事業主および治療担当医師の証明をうけて、労働基準監督署長に提出します。
休業した日数分をまとめて一括請求するのか、または分割請求するかは、労働者が自由に選択することが出来ます。
一般的に、休業が長期間になる場合は1カ月ごとに請求します。
⑶傷病(補償)給付申請
療養開始後1年6カ月を経過しても傷病が治っていないときは、その後1カ月以内に「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)を労働基準監督署長に提出します。
療養開始後1年6カ月を経過しても、傷病(補償)年金の支給要件を満たしていない場合は、毎年1月分の休業(補償)給付を請求する際に、「傷病の状態等に関する報告書」(様式第16号の11)を併せて提出する必要があります。
⑷障害(補償)年金給付申請
「障害補償給付支給請求書・障害特別支給金支給申請書・障害特別年金支給申請書・障害特別一時金支給申請書」(様式第10号)に必要事項を記載し、労働基準監督署長に提出します。
請求書には、①負傷または疾病が治ったこと・治った日・治った時の障害の状態に関する医師の・歯科医師の診断書、②障害の状態を証明し得るレントゲン写真等の資料を、添付する必要があります。
障害厚生年金・障害基礎年金等の支給を受けている場合は、その支給額を証明できる書類の添付も必要です。
⑸遺族(補償)年金給付申請
・遺族補償年金
「遺族補償年金支給請求書」(様式第12号)に必要事項を記入し、労働基準監督署長に提出します。
労働者の死亡事実および死亡日、労働者との身分関係を証明することが出来る書類を添付する必要です。
・遺族補償一時金
「遺族補償一時金支給請求書」(様式第15号)に必要事項を記入し、必要な証明書類を添付して労働基準監督署長に提出します。
遺族補償一時金は、支給が決定されてすぐに支給されます。
⑹葬祭料(葬祭給付)給付申請
「葬祭料請求書」(様式第16号)に必要事項を記入し、事業主の証明を得た上で労働基準監督署長に提出します。
⑺介護(補償)給付申請
「介護補償給付申請書」(様式第16号の2の2)に、必要事項を記入し、医師の診断書や介護に要した費用の証明書を添付して、労働基準監督署長に提出します。
労働災害申請における事業 主の証明と意見申し出
事業主は、労働災害により被災した労働者または遺族が、負傷または発病の年月日、災害の原因及び発生状況等、保険給付のために必要な証明を請求された時は、迅速に対応しなければいけません。
事業主が必要証明を行わない場合は、労働者は、事業主が証明しないことを労働署に説明し、保険給付を受けることが出来ます。
事業主は、労働災害における保険給付の請求に対して意見があるとき、労働基準監督署長に申し出することが出来ます。事業主は、労災保険給付の決定には関与することはありません。しかし、労災保険料を支払っている立場から、労働災害の成否及び保険給付の有無について無関心ではいられません。そのために、事業主による意見申し出が可能となりました。
*出所*
冨田武夫、牛嶋勉(2015)「最新実務労働災害ー労働補償と民事損害賠償ー」三協法規出版社
休業中の補償について
労災で仕事ができなくなったときに休業中の補償制度があります。労働者が、業務または通勤が原因となった負傷や疾病のため労働することができなくなり、そのために賃金を受けていないとき、休業した4日目以降から一定の金員が支給されることになっています。
業務災害の場合は「休業補償給付」が支給され、通勤災害の場合は「休業給付」が支給されます。
休業(補償)給付申請の手続きについて
手続きについては、「休業補償給付請求書・休 業特別支給金支給申請書」(様式第8号)に、必要事項を記入し、事業主および治療担当医師の証明をうけて、労働基準監督署長に提出します。
休業した日数分をまとめて一括請求するのか、または分割請求するかは、労働者が自由に選択することができます。
休業が長期間になる場合は1カ月ごとに請求するので、忘れないようにしてください。
支給額について
支給額は以下のように決められ、どちらも受け取ることができます。
(1) 休業(補償)給付=給付基礎日額の60%×休業日数
(2) 休業特別支給金=給付基礎日額の20%×休業日数
休業初日~3日目の期間を、待期期間といいます。待期期間の3日間は、連続していても断続してもどちらでも構いません。
業務災害の場合、この期間は事業主が労働基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行います。通勤災害の場合は、待期期間に休業給付は受けられないので注意してください。
通院のため、労働者が所定労働時間のうち一部を休業した場合は、給付基礎日額から実際に労働した部分に対して支払われる賃金額を排除した額の60%に当たる額が支給されます。
労災補償と損害賠償請求について
~被災者やご家族が知らないと損をする事実~
「労災保険」制度の趣旨
労働者は、使用者(経営者)に労働を提供し、使用者からその対価として賃金を得て生活しているということは、皆さんも十分お分かりのことと思います。そうすると、もしも怪我をしたり病気にかかったり、あるいはこれらが原因で身体に障害が残ったり、死亡したりすると、その労働者や家族の生活が成り立たなくなり路頭に迷ってしまわざるを得ないというのも、至極当然のことですよね。
そこで、労働基準法は、そのような事態にならないために、労働者保護の観点から、業務上の災害が発生した場合には、傷病等の原因となった使用者に損失を補償するよう義務付けています。要するに、業務上発生した怪我や病気については、使用者(経営者)の責任において補償を行うのが大原則なのです。
しかしながら、使用者(経営者)側にとっても、労働災害により高額な支払いをしなければならないとすると、労働者への補償により資金がなくなってしまい事業活動が困難になることも考えられます。
そこで、そのようなことにもならないように、被災した労働者が確実に補償を受けられるよう、業務中や通勤中の怪我や病気については、相互扶助の考え方に基づく「労災保険」という制度が設けられたのです。
会社への損害賠償請求の方法について
使用者責任(他の従業員の故意・過失(不注意)によって怪我をした)について
会社は、会社のある従業員が作業中に故意・過失(不注意)によって別の従業員(被害者)に怪我をさせた場合、会社も民事上の使用者責任(民法715条)に基づいて、被害者に対して賠償責任を負うことになっています。
この場合には、使用者責任に基づいて会社に対して損害賠償を請求して行くことになりますが、私の経験上、比較的、会社も話し合いの段階から責任を認めることが多いと思われます。
債務不履行責任(自分一人での作業中に怪我をした・安全配慮義務違反)
「自分一人で作業中に怪我をした場合」には、会社に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をすることになります。
「自分一人で作業中に怪我をした場合」は、「他の従業員の故意・過失によって怪我をした場合」と比較すると、会社が「労働者の自損事故であるため会社には責任がない。」と請求を拒否するケースが多いようです。
その理由は、安全配慮義務違反の内容が定型的ではなく不明確だからです。
例えば、交通事故であれば、自動車を運転しているときに相手に怪我をさせてしまったら、加害者に損賠賠償の責任があることは普通のことであると言えます。
ところが、安全配慮義務違反については、会社側が具体的に何をどうしたら違反になるのかという内容が不明確で、会社側も認識していないことが多いです。
また、労災事故については被災者(労働者)にも一定の過失があることが多いため、会社としては「こんな事故は今まで起きたことがなく、被災者の過失によって生じた事故であり、会社には責任がない」と考えてしまうのです。
では、どのような場合に、会社に対して安全配慮義務違反として責任を問えるのでしょうか。
安全配慮義務は、業種、作業内容、作業環境、被災者の地位や経験、当時の技術水準など様々な要素を総合的に考慮してその内容が決まります。
そのため、具体的な被災状況について、詳細に聞き取りをしてからでないと、会社に対して安全配慮義務違反を問えるかどうかは分かりません。
もっとも、私の経験上、概括的に言えば「教育不足が原因で被災した」または「会社の管理支配する場所で、会社から提供された機械や道具が原因で被災した」場合には、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
さらに具体的に言えば、労働者の安全対策のための法令として「労働安全衛生法」と「労働安全衛生規則」が定められておりますが、その条文に違反するような状況下で事故が起きたのであれば、安全配慮義務違反を問いやすいと言えます。
私が扱ったケースでは、労働者が、ある作業場の開口部から落下して脊椎損傷の傷害を負った事故でしたが、本来、高さが2m以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、囲い、手すり、覆い等を設けなければならないと労働安全衛生規則に定めがあり、会社側がその囲い等の設置をしてなかったことから安全配慮義務違反は容易に認められました。
なお、重大事故で労働基準監督署が災害調査を行い、その結果、法令違反があるとして是正勧告などを会社が受けた場合や、警察・検察が捜査をして会社や担当者が刑事処分を受けた場合は、高い確率で会社に対して安全配慮義務違反を問うことが可能です。
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求の時効は10年です。
不法行為責任について
事故の原因が企業の組織、活動そのものを原因とするような場合や、労働現場の建物・設備に危険があった場合(工作物責任 民法717条)などに認められることがあります。
労災に関して会社に責任追及する際に、法的な根拠となる不法行為責任としては、次の5種類があります。
・一般不法行為責任(民法709条)
・使用者責任(民法715条1項)
・土地の工作物責任(民法717条)
・注文者の責任(民法716条但書)
・運行供用者責任(自動車損害賠償保障法3条)
例えば、「同じ現場で作業していた方が落としたものに当たった」というケースはとても多くあります。このような場合、責任は誰にあるのでしょうか。
当然のことながら、落としてしまった本人に落ち度はあります。しかし、労災事故の現場における「責任」は、使用者(=会社)に対して追及され、損害賠償が行われることがほとんどなのです。
これを「使用者責任」(民法715条)と呼び、会社に対して損害賠償を行う際の根拠となります。
後遺障害等級認定について
労働災害によって負った怪我が「これ以上良くならない」という状態(「症状固定」)になると、「後遺障害(後遺症)」となります。
後遺障害(後遺症)には、最も重篤な1級から、比較的軽度な14級まで「等級」が定められており、それぞれの等級によって支払われる損害賠償金の額が決まっています。
等級がひとつ違うだけで、数百万円から数千万円まで差がつくことが多くありますから、少しでも高い等級の認定を得ることが、賠償金を得る上ではきわめて重要です。
個人側(労働者側)の弁護士が数多く存在する中でも、この「後遺障害」の認定を得意とする弁護士はそう多くはいません。労働災害、そして医学に精通した弁護士に依頼することで、より高い後遺障害等級をめざすことが可能になります。
当事務所では、交通事故の後遺障害に詳しい弁護士が被害者の方と病院に同行するなどして、適切な後遺障害の認定を受けられるための後遺障害診断書の記載内容を医師に説明して協力をお願いしています。
労災認定再審査請求
労災不支給決定に対する不服申立て手続き
1)審査請求
労災保険請求について、労働基準監督署長が不支給決定等の処分(原処分)を行った場合、請求者がこれに不服であれば審査請求という手続きにより、原処分の取消しを求めることができることになっています。
審査請求の方法は、決定を行った原処分庁の労働基準監督署長を管轄する都道府県労働局の労働者災害補償審査官に対し、口頭又は書面で行います。
各地の労働基準監督署には「労働保険審査請求書」という書面が用意されていますので、これをもらって、書面で提出するのが良いと思います。
審査請求ができる期間は、決定(原処分)があったことを知った日の翌日から3カ月となっています。
2)再審査請求
労働者災害補償審査官が「審査請求を棄却する。」との決定を行った場合。この決定に不服であれば、再審査請求という手続きにより、再度、原処分の取消しを求めることができます。
再審査請求の手続きは、労働保険審査会に対し、書面を提出して行います。
再審査請求ができる期間は、労働者災害補償審査官の作成した棄却決定書の謄本が送付された日から2カ月となっています。
又、審査請求をしてから3カ月以内を経過しても労働者災害補償審査官の決定がない場合は、審査官が審査請求を棄却したものとみなし、審査請求人は、再審査請求をすることができます。
労働保険審査会が「再審査請求を棄却する。」との裁決をした場合、再審査請求人は6カ月以内に原処分の取消しを求めて、各地の地方裁判所の本庁に「労災不支給処分決定取消しの訴」という行政訴訟を提起することができます。
3) 原処分取消しの場合
労働者災害補償審査官が「原処分を取消す。」との決定をすると、労働基準監督署署長(原処分庁)が新たな処分をします。
この処分に審査請求人が不服であっても、直接労働保険審査会に再審査請求することはできません。
この処分は以前の処分と違うことになるので、この新たな処分に不服がある場合には、審査請求の上、労働者災害補償審査官の決定を経る必要があります。
4)行政訴訟について
再審査請求において、労災保険不支給決定処分が取消されなかった場合、6カ月以内に各地の地方裁判所の本庁に「労災不支給処分決定取消しの訴」という行政訴訟を提起することになります。
この取消し訴訟においては、裁判官が厚生労働省の通達や労災認定基準などの行政の判断基準に必ずしもとらわれず、事案に応じ判断する傾向がありますので、労働保険審査会の結果と異なる場合が多々あります。
しかし、そうは言っても、労働災害の原因や発生状況を克明に立証し、それが業務に起因したものであることを明白にしなればなりませんので、このようなことは労災事故に精通した弁護士に任せることが大事になります。
労災事故直後から弁護士に相談し、早い段階から被災労働者側に有利な証拠を集めることが、審査請求や再審査請求、行政訴訟への最善の備えとなります。
労働災害への事業主の向き合い方
労働災害への事業主の対応の仕方
1)事業主の補償義務について
事業主は、労働災害が発生し、労働者が健康を害した場合に、労働基準法により補償責任を負わなければいけません。
しかし、事業主が労災保険に加入している場合は、労災保険の給付がおこなわれ、事業主は労働基準法における補償責任を免れることが出来ます。事業主にとっては、労災保険は強い味方といえるでしょう。
ただし、労働者が労働災害によって休業する1日目~3日目に関する補償は、労災保険から給付されません。よって、事業主は労働基準法で定める平均賃金の60%を、直接労働者に支払う必要があるので注意してください。
2)事業主の安全配慮義務
さらに、事業主は労働契約の当事者として、労働者が安全に就労できるようにする義務を負います。これを事業主の「安全配慮義務」といいます。
安全配慮義務の具体的内容は以下の2点です。
①労働者の利用する物的施設・機械等を整備する義務
②安全等を確保するための人的管理を適切に行う義務
a 危険作業を行うための十分な資格・経験を持つ労働者を配置する義務
b 安全教育を行い、あるいは危険を回避するための適切な注意や作業管理を行う義務
事業主がこの安全配慮義務を怠ったために労働者が労働災害にあった時、事業主は労働契約違反として、民法上の損害賠償責任義務を負います。
また事業主は、労働災害が発生した場合に労働基準監督署に報告しなかった場合や、虚偽の報告を行った場合も、事業主は刑事責任を問われる可能性があります。場合によっては刑法上の業務上過失致死傷罪等に問われることもありますので、注意してください。
最近では、民事上の損害補償と労災保険は同時に請求されることが増えてきています。また契約関係の有無を問わず、施設の管理や労働者の健康管理について安全上の措置を促す一般的な注意義務を有していると判断されます。よって、労働災害において事業主の不法行為責任を認める判決も増加してきています。
事業主は、雇用者として社会常識的に必要な安全性について、不注意があったかがどうかが注目されてきていることを意識して、常日頃から安全義務を果たすよう努めていく姿勢が求めれているといえるでしょう。
3)事業主が労働災害防止対策を講じる責任
事業主は、労働災害を未然に防ぐために、安全管理体制を整える責任があります。労働災害発生の防止策としては、「安全衛生管理体制の構築」「安全衛生教育・健康診断の実施」「メンタルヘルス対策」の3つが考えられます。
①安全衛生管理体制の構築
安全衛生管理体制を築くには、管理責任者の選任と委員会の組織化が求められます。
管理責任者は、次のような者を指します。
1)安全管理者(事業場の安全について実際に管理する専門家)
2)衛生管理者(事業場の衛生について実際に管理する専門家。業種を問わず選任必要)
3)統括安全衛生管理者(安全衛生についての業務を統括管理する最高責任者)
4)安全衛生推進者・衛生推進者(小規模事業場で、選任が義務づけられている)
5)産業医(医師として労働者の健康管理を行う。
6)作業主任者(特に危険・有害な業務で政令を定めるものについて選任が必要)
管理責任者以外にも、労働者の意見を反映させるための「安全委員会・衛生委員会」の設置が求められます。
②安全衛生教育・健康診断の実施
事業主は、労働者に対して「機械等・原材料等の危険性・有害性・取り扱い方法」「安全装置・有害物抑制装置・保護具の性能・取り扱い方法」などの安全・衛生面における教育をおこなう必要があります。
また、個々の労働者の健康状態を把握し、適切な健康管理を行うための「健康診断」も定期的に実施しなければいけないでしょう。
さらに事業主は、疲労の蓄積が認められる労働者に対して、申し出が出た場合、面接指導を行う義務を持ちます。
事業主は、必要であれば就業場所の変更・労働時間の短縮などの措置を取りましょう。
③「メンタルヘルス対策」
近年、心の病に関する労働災害認定が大きな問題となっています。事業主は、労働者の精神面での健康を保つために、労働環境を整える責任があるといえるでしょう。
メンタルヘルス対策では、心の病を患う労働者を出さないように、未然に防止策を講じることが何よりも重要です。
防止策として、「相談窓口の設置」「精神負担の大きい管理職の研修」「産業カウンセラーの導入」「ストレス・チェック」などが考えられます。
精神面における労働災害が認められた社員については、「専門家との連携で社員をケアする」「十分な休職期間を設ける」「職場復帰における会社内の安全衛生に関する規定を整える」といった対策が必要でしょう。
事業主は、メンタルヘルス対策において「情報」の取り扱いに関して最大級の注意を払う必要性があります。心の病に関する情報は、性質上、厳重な管理が求められます。
事業主は、個人情報保護法の規定をよく確認し、情報を入手する際は、労働者の同意を得ることを心がけてください。
4)労働災害が発生した際の事業主の対応
労働災害により労働者が死亡または休業した場合に、事業主は遅滞なく、「労働者死傷病報告」を労働基準監督署長に届けでなければいけません。
労災死傷病報告の届出は、以下の4条件の時に必要となります。
①労働者が労働災害により、負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
②労働者が就業中に負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
③労働者が事業場内又はその附属建設物内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
④労働者が事業の附属寄宿舎内で負傷、窒息又は急性中毒により死亡し又は休業したとき
労働者死傷病報告は、労働災害統計の作成・労働災害の原因分析・同種労働災害の再発防止策の検討に生かされます。
労働災害防止のための安全管理体制を整える責任がある事業主には、労働者死傷病報告を届出る責任があります。
届出を怠った場合、虚偽の届出を行った場合、または出頭しなかった場合は、50万以下の罰金刑が課せられます。
労災隠しをされそう!労働災害に遭ってお困りの方へ
労働災害(労災)は、労働者が業務中や通勤中に負傷したり、疾病に罹患したりする事象を指します。これらの労災は、労働者の生命や健康に直接関わる重大な問題であり、緊急かつ適切に対応が求められます。しかし、現実には企業が労災の発生を隠蔽する、いわゆる「労災隠し」が存在します。本稿では、労災隠しの背景、企業側の知識不足、法的罰則、労災隠しを行う企業の特徴、リスク、損害賠償、そして当事務所が提供できるサポートについて詳述します。
1 なぜ労災隠しをするのか
企業が労災隠しを行う背景には、以下のような要因が考えられます。
保険料の増加回避
労災が発生すると、労災保険の保険料率が上昇する可能性があります。これを避けるために、労災の発生を報告しない企業があります。
企業イメージの保護
労災の発生は、企業の安全管理体制の不備として社会的評価を下げる可能性があります。そのため、企業の評判を守る目的で労災を隠蔽することがあります。
行政指導や監査の回避
労災が報告されると、労働基準監督署からの指導や監査が行われる可能性があります。これらを避けるために、労災を報告しないケースがあります。
2 企業側にも知識がないこと
一部の企業では、労災に関する法的義務や手続きについての知識が不足しているため、結果的に労災隠しを行ってしまうケースがあります。例えば、労災保険への加入義務や、労災発生時の報告義務を認識していない企業が存在します。このような知識不足は、労働者の権利を侵害するだけでなく、企業自身にも法的リスクをもたらします。
3 労災隠しの罰則
労災隠しは、労働安全衛生法に違反する行為であり、厳格な罰則が設けられています。具体的には、労働者が死亡または休業した場合、事業者は労働者死傷病報告を労働基準監督署に提出する義務があります(労働安全衛生法第100条)。これを怠った場合、50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法第120条)。 また、虚偽の報告を行った場合も同様の罰則が適用されます(労働省災害補償保険法第42条)。
4 労災隠しをする企業とは
労災隠しを行う企業には、以下のような特徴が見られます。
・安全管理体制の不備:労働環境の安全性を軽視し、適切な安全対策を講じていない企業。
・コンプライアンス意識の欠如:法令遵守の意識が低く、労働者の権利を軽視する企業。
・労働者とのコミュニケーション不足:労働者からの報告や意見を適切に受け入れず、問題を隠蔽しようとする企業。
5 労災隠しのリスク
労災隠しは、企業にとって多大なリスクを伴います。
法的リスク
前述の通り、労災隠しは労働安全衛生法違反となり、罰金などの刑事罰が科される可能性があります。
経済的リスク
労災隠しが発覚した場合、被災労働者からの損害賠償請求を受ける可能性があります。また、労災保険が適用されない場合、企業が全額負担することとなり、経済的負担が増大します。
社会的リスク
労災隠しが公に知られると、企業の信用失墜や取引先からの信頼喪失につながり、事業継続に支障をきたす可能性があります。
6 労災隠しによる損害賠償
労災隠しにより、労働者が適切な補償を受けられなかった場合、企業は民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。具体的には、治療費、休業損害、後遺障害が残った場合の逸失利益、そして慰謝料など、多岐にわたる損害賠償請求が考えられます。これらは企業にとって大きな経済的負担となるだけでなく、社会的信用の失墜にも直結します。
7 当事務所がサポートできること
当事務所では、労災隠しをしようとしている企業に労災を申請するよう促したり、被災者自身で労災を申請する際の書類を書き方などをサポートすることができます。また、会社に責任がある事案であれば、会社に損害賠償を請求する証拠について収集のアドバイスもできます。危険な労災の現場の写真、図面などです。
このように会社が労災隠しの圧力をかけてきても、弁護士からアドバイスを受けていれば、労災の申請や損害賠償について適切に対応できて不利益を防止できますので、当事務所にぜひご相談していただきたいと思い ます。

